Pilots Forum 日本語版

日本と米国の自家用機操縦士やパイロットライセンス取得を考えている方々への情報提供と意見交換のためのブログです。

飛行中のリスクに直面した時の判断(DECIDE)モデル

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先の投稿において、エンジンの不調を手始めとして、PIC(であるか否かにかかわらず)である際に飛行中に起こり得る具体的な航空リスクについて話し合うことにより、より安全なパイロットになる方法を今後の投稿の課題に含めると申し上げました。以下の情報は、FAA事業用操縦士筆記試験の受験勉強で現在私が受講しているJeppesen事業用操縦士オンラインコースに基づいています。以下の情報と事例は、正しく説明(かつ部分的に変更)しているはずですが、私はCFIやA&P整備士などではないので、ご自身でも信頼性の高い他の情報源を確認され、ここに示した助言や情報だけに頼らないようにしてください。航空機の安全の問題を話し合うことを通じて、とりわけパイロットが望む頻度で飛べない国において、安全に対する皆の意識を高めてGAの事故件数を減らすことができ、GAのパブリックイメージがよくなるでしょう。

事例:あなたは自家用操縦士で、日本の東京近郊の大利根空港から八丈島に向かって単発機で飛んでいます。陸から約15マイルのところで、エンジンがガタガタいいはじめました。さて、どうしますか?

これに限らずほとんどのトラブルに対応するためのAeronautical Decision Making (ADM)  DECIDE modelというものが存在します。これは、所与の状況において一貫して最良のとるべき行動を判断するための、体系的な6ステップの飛行判断プロセスからなるものです。 

DECIDEモデルを用いた第1ステップ(D- DETECT)は 、エンジンが不調であるという航空機内の変化を探知 (Detect)することです。

DECIDEモデルの第2ステップ(E- ESTIMATE)は、この変化に対抗または対応する必要性を推測する(Estimate)することです。この推測ステップは、次のことを特定することにより行います。

- 探知された飛行状態に関連して起こり得る「リスクまたは危険要因」

- 特定されたリスクまたは危険要因が「もたらし得る結果」

- 当該飛行状態に対処する操縦士の手腕

- 航空機の性能

- この飛行状態に寄与した可能性のある外的要因


- そして、問題の全体的な推定深刻度。


この場合、リスクは回転不調のエンジンです。この状態は、燃料汚染、キャブレターアイシング、低油量、マグネトの故障、高温のシリンダに関連している可能性があります。考えられる結果として、エンジンが故障して、航空機を水中不時着させなければならなくなるかもしれません。パイロットとして、あなたの洋上飛行の実務経験は限られています。航空機は、選択可能な燃料タンクを持つ単発レシプロ式キャブレター付エンジンです。外は、気温が低く、目に見える状態の水蒸気(可視水分:visible moisture)があります。全体的な推定深刻度は、現在の飛行状態は緊急事態ではないが、異常または常ならぬ事態として分類すべきということです。

DECIDEモデルの第3ステップ(C- CHOOSE) は、飛行を成功させるために望ましいふるまいを選択(Choose)することです。緊急事態であれば、ただちに航空機操作行動を行います。異常事態であれば、適時に航空機操作行動を行います。その他の場合には、タイムリーな行動を時間が許すときに行います。回転不調のエンジンは異常事態ですから、あなたは適時に航空機操作行動を行う必要があり、この場合、いくらか考える時間があります。この思考またはヘッドワークは、あなたの判断プロセスに影響を与え得る、飛行に対する姿勢を律することから始まります。気象解説情報の何らかの警告を無視したか?エンジン不調のまま八丈島まで飛行を続けようと考えているか?ATCの助けなしに自分だけで問題を解決しようとしているか?複数の解決策を考えようとしているか、それとも最初に思いついたことだけしようとしているか?あるいは、この状況がひとりでに去ってくれることを期待しているか?次に、ストレスレベルを評価、制御します。事があわただしく感じたり、ストレスを感じ始めたりしたときは、適切な決断ができるように、時間稼ぎをする方法を見つけましょう。例えば、陸からさらに離れてしまう前に、旋回する場所を見つけましょう。あるいは、ATCに、混雑している空域から離れる進路を教えてもらいましょう。あるいは、滑空距離が伸び地勢に脅威を感じないところまで高度を上げましょう。

DECIDEモデルの第4ステップは、不調の状態において変化をうまく制御できる解決策を特定する(I-IDENTIFY)ことです。解決策は例えば、東京に戻る、洋上でのエンジン喪失に備える、管制部に状況を伝える、混合気を希薄にするか濃厚にする、キャブレターヒートをオンにする、代替燃料タンクを選択する、POH(Pilot Operating Handbook)で指示を見つける、などがあるでしょう。

DECIDEモデルの第5ステップは、必要な行動を行う(D-DO)ことです。特定した解決策に、優先順位をつけなければなりません。例えば、

1-状況を管制部に伝える
2-POHで指示を見つける(キャブレターヒートをオンにする、混合気を希薄にするか濃厚にする、代替燃料タンクを選択する、洋上でのエンジン喪失に備える、など)、または
3-東京に戻る、

という具合です。

 

優先リストの中から、最も優先度の高い行動を最初に行います。この例においては、状況を管制部に伝えることを最優先事項と判断しました。なぜなら、エンジン喪失という事態になった場合、管制部が捜索救難(SAR)にあなたの位置を知らせ、その位置の海域で生き延びられるチャンスが高まるからです。


DECIDEモデルの第6ステップは、行動の効果を評価する(E-EVALUATE)ことです。DECIDEモデルには、あなたが行動を行った後、2つの選択肢があります。適時に対処しなければならない飛行状態については、その飛行状態に戻り、リスクが依然として存在するかを探り、深刻度を推定し、航空機操作行動を取ることができる時を選択し、所望の行動指針を遂行します。時間が許すときに対処する必要のある飛行状態については、行動の効果を評価し、DECIDEモデルの冒頭に折り返して、残存し得る他のリスクがないか探します。何か他のリスクを特定した場合には、DECIDEモデルの次のステップへと進みます。エンジンの回転不調は、あなたがその飛行状態に戻るところから始めなければならない異常事態です。現在の飛行状態に戻り、あなたはエンジンがまだ不調であることに気づきます。あなたはこのトラブルがなお、適時に対処する必要のある異常事態であると推定します。残りの解決策についてはすでに特定済です。

管制部に連絡するという行動をいったん行ったら、POHに指示を求め、かつ/あるいは可能性のある原因としてあなたが特定した項目をつぶしにかかります。例えば、可視水分が存在し、気温が凝固温度範囲にある可能性があれば、キャブレターヒートをオンにして、キャブレターアイシングが問題なのかどうかを確かめようとするでしょう。上昇中に、または高度を上げたところでこのトラブルが起き始めたのなら、混合特性を制御したかどうかを確かめようとするでしょう。燃料タンクの変更も、他に行い得ることですし、イグニッションを右か左のマグネトに切り替えることで、マグネトの故障が問題であることが分かるかもしれません。やり方を知らないのであれば、POHを使って、各プロシージャを適切に行う方法を理解しましょう。


この例では、キャブレターヒートを加えることで問題が解決でき、エンジンの不調が去ったとしましょう。この場合、DECIDEモデルにより、あなたは5Pとして知られる5つの主要なリスクカテゴリーPilot-Plane-Passengers-Program-Planまで振り返ることになります。

各カテゴリーを検討すると、次のことが分かります。まず、パイロット(Pilot)としてあなたはまだ飛行に適しています。航空機(Plane)には耐空性がありそうだし、発動機計器はすべて航空機が正常に動作していることを示しています。あなたの乗客(Passengers)(いたとすれば)は大丈夫のようで、もう怖がってはいません。自動操縦航法装置がセットされ、正常に動いており、無線(Program)も正常です。 しかし、飛行計画(Plan)(八丈島までの飛行)を見直してみて、八丈島への往復において、キャブレターヒートにより燃料の燃焼が増えていることを認識します。この新たな状況により、あなたはDECIDEモデルを再び適用して、飛行を継続するか、東京に戻るかを判断しなければなりません。例えば、八丈島に到達するまで十分な燃料がありますか?到着先には、あなたの航空機に合った燃料が確実にあり、燃料を補給して帰還することができますか?

〔パーソナルメモ:このシナリオは3年前に実際に私に起きたことで、肝を冷やしました。私は自分のCessna 172 (N5132Q)でバージニア州のタンパハノック空港(KXSA)を出発して、メリーランド州のホームエアポートであるポトマック空港(KVKX)への帰途に就いたところでした。ポトマック空港は、ホワイトハウスと、米国国会議事堂、ペンタゴンスミソニアン博物館群が存在するワシントンDC中心部とを囲む飛行制限区域(FRZ)にあります。ちょうど3000フィートMSLでレベルオフしたところでエンジンが突然異常をきたし、混合気を希薄にしました。出発空港から約5マイル北の農地の上空におり、緊急着陸ができそうな場所をすぐに探し始めました。当時はDECIDEモデルについて知らなかったので、基本的に直感で反応しました。キャブレターアイシングを起こしそうな天気ではなかったので、キャブレターヒートを加えることは考えませんでした。KVKXからKXSAまで同じ燃料で飛んできたばかりであり、KXSAでは燃料補給をしなかったので、燃料汚染が問題だとも思えませんでした。私はただちに航空機の進路をKXSAに戻しつつ混合設定の変更にとりかかり、空港事務所と、付近を飛行中の航空機とに、自分の状況をUnicom周波数で通報しました。ATCには連絡しませんでした。左または右のマグネトの位置にイグニッションを切り替えることもしませんでした。エンジンは、約10分後に着陸するまでずっと不調なままでした。後日、両方のマグネトが故障しはじめており、それが最も可能性の高い原因だったと知りました。これらが最後に交換されたのは、エンジンがオーバーホールされた1500時間前(約20年前)であったようです。その後、これらを新しいマグネトに交換させ、問題を解決しました!〕

パイロット仲間のみなさん、はじめまして

このブログを読まれているということは、あなたはおそらく日本にお住まいの日本人パイロットですね?私は日本で過ごすことが多いのですが、日本語は得意ではありません。オリジナルの英語版をご覧になりたい方は、pilotsforum.wordpress.comにお立ち寄りください。

私は日本人ではありませんが、毎年平均6か月は日本に住んでいます。この美しい日本と、ふだんは親切で、正直で、人懐こく、楽しい日本の人々と、日本文化の多くの側面(この点についてはのちほど)に魅せられたからです。私は、十数年前に、自らが経営する法律事務所の東京支所を開設し、日本人(彼女はジェネラルアビエーション(GA)ファンではありません!)と結婚しました。30年以上日本企業のお客様と働いてきて、日本に事務所を持って日本人スタッフを置くほうが、良いサービスが提供できることが分かったからです。実際、妻と私は、猫のももちゃんと一緒に、3か月毎に日本とアメリカの間を行き来しており、アメリカに戻った時に、パートナー弁護士たちの事務所経営をサポートし、成人した子供たちに会い、自家用機で空を飛んでいます。私は、Cessna 172M(1973年製のビンテージものです)を単独で所有し、Cessna TTX(写真をご覧ください)を共同で所有しています。Cessna TTXは、現存の最速の単発ピストン機です。これは複雑な飛行機で、しょっちゅう乗らないとすぐに操縦方法を忘れてしまうことは、ご理解いただけるかと思います。

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そして、それこそがこのブログを書くことにした理由です。私は飛行機に乗ることが大好きで、1976年以来断続的に操縦してきたので、日本に住みながら定期的に飛行機に乗れないのは、耐えがたいことです。ちょうど腕を一本もがれたようなものです。正直、私はもっと日本にいたいのですが、それは日本で自分の飛行機の少なくとも一機に乗れるか、あるいは 手ごろな値段で飛行機が借りられたらの話です。残念ながら、国土交通省航空局(JCAB)は、飛行機が分かっていない人が多いために、GAに対して厳しいのです。少し変わってきているとはいえ、まだまだ遠い道のりです。

実情として、飛行場の屋外で飛行機(例えば、Cessna 172)をタイダウン(ここではひとまず格納庫に保管する場合のコストは置いておきます)し、優秀な整備士に整備してもらい、定期的に飛ぶのは、関東地域ではほぼ不可能です。例えば年100時間飛行する飛行機であれば、年間運転コストは、毎年400万円を優に超えます。これに対して、アメリカでは、保険に約1000ドル、年次点検に1200ドル、タイダウンに約1000ドルの、毎年合計3200ドル(約35万円)を支払っています。日本で自家用機に乗るには、アメリカより10倍以上も費用がかかるのです。一体なぜ?

この無駄なコスト差のせいで、関東地域でCessna 172を借りるコストは、最低でも1時間あたり400ドルを超えます。アメリカのワシントンDCエリアでは、私のCessna 172の1時間あたりのリース料は、ドライ・リースで85ドル(乗り終わった時に借りた人が燃料を入れて返す)、ウェット・リースで130ドル(燃料込み)です。日本で飛行機を借りたら3倍以上します。結果的に、ほとんどの日本人パイロットは、日本の約5分の1のコストのアメリカ本国かグアムに来て、FAAパイロットライセンスの取得を目指します。

このコストの不均衡に、合理的な理由はないはずです。JCABは、コストが高額なのは安全性を第一に確保するためだと(たぶん)主張するでしょう。 しかし、この高額のコストこそが、本質的にGAの安全性を脅しているのです。なぜって?良いパイロットを育てるには、なるべく頻繁に飛行機に乗せて、スキルの実践と向上を図るとともに、安全に役立つ計器飛行証明や事業用操縦士技能証明などの他の技能証明を取得させることが唯一の方法だからに他なりません。これには少なくとも年50時間、好ましくは75時間から100時間以上の飛行時間が必要です。日本では、少なくとも関東地域では、日本人パイロットは、せいぜい一年に5時間から10時間飛んでログブックに記録できればラッキーです。一年ですよ!!!ご存じのとおり、航空機の操縦は非常に失われやすいスキルであり、これを維持して安全なパイロットであり続けるには、まかなえるコストで定期的に飛ぶしかないのです。

The Aircraft Owners and Pilots Association (AOPA-US)は、GAの促進に関してアメリカで最も成功している組織です。日本にはAOPA-Japanがありますが、AOPA-USとは何の関係もありません。私は、両国のAOPAのれっきとした有料会員であり、AOPA-JAPANの目的も同じだと思うのですが、残念ながら、AOPA-JAPANは、たいへん異なる不利な環境で運営されています。会員は、非常に経験豊富で献身的な航空専門家であるにもかかわらず、基本的に有志です。

アメリカで頻繁に飛んでいる(年約75~100時間) FAA計器飛行自家用機操縦士として、そして日本でも頻繁に飛びたいと願う者として、どうすれば日本でGAがもっと安全かつ手ごろになるのか、そしてどうすればパブリックイメージを良くすることができるのかを話し合うために、このブログを開設して、AOPA会員に限らず誰でもがアクセスできるプラットフォームとしました。現在日本は世界で第3位の経済大国であり、共産主義国ではありません。熱心なGA愛好家にこれほど厳しくする理由などありません。安全を促進し、実現する最良の方法として、とりわけ手ごろなコストで頻繁に飛行できるようになれば、自家用機の飛行は、日本においてもっと容易に、もっと手ごろになることでしょう。これに資するべく、対話を通じて共に理解と協力を深めていけることを願っています。 

安全な飛行を促進するという志から、一層安全な操縦技術を培うための方法についても話し合いたいと思います。したがって、次回以降の各記事では、再発する機内でのいくつかのトラブル事例と、それに対処する方法について検討します。例えば、次回の記事では、飛行中にエンジンが不調になったときにどうすべきかについて探っていきます。

これらの問題についてコメントし合い、なりゆきを共に見届けましょう! 

お読みいただきありがとうございます。安全な空の旅を!